PHOTO MEMO by FES

写真についての個人的メモ

カムイ

写真についての個人的なメモです!

Kamuy展

 美瑛居住の写真家、中西敏貴氏の『Kamuy』展とワークショップに行ってきました。昨年、同じような時期に東京のキャノンギャラリーで開催されたときには、場内が暗く作品にだけ照明が当たるというような異色の展示だったようです。今回はご覧のように自然光が入ったり、明るい照明での展示でした。
 写真集は購入してみましたが、やはり大判の作品には圧倒されましたし、モノクロとカラーでも3Dを見るような錯覚を覚えるのが強烈な印象でした。やはり、色彩と輝度、ハイライトとブラックの絶妙なるカメラ設定と現像の処理が駆使されていての表現であることが氏の言からもわかりました。

 このタイトルの一部が抜けている「Ka」にも氏の表現への主張が隠されていることも改めて認識させられました。個人的には美瑛移住から8年でこのような氏独自の表現を確立し、更に進化していく姿には脱帽しつつ、写真家としての活躍を嬉しく思う一人です。


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 ワークショップはSNS:noteでのサークル参加者のみが対象のもので、コロナ禍で延期になっていたものです。道内でしたが12名がそれぞれ2〜5点の作品を持ち寄って、中西氏の柔らかい講評・プリントのコツ、テーマやコンセプトを中心に、参加者にも講評・感想を振っていくような形で1時間半を過ごしました。
 SNSで作品の発表はできるかと思いますが、プロからの講評などを受けるのは貴重な時間でしたし、参加者の作品の講評も聞いたりでき、実に有意義な時間でした。

 (WSの様子:翌日SNSで載りましたので転用です)
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先端を走る

 今回、高橋真澄氏の「美しい時間」(2019年発行)と中西敏貴氏の「カムイ Kamuy」(2020年発行)の2冊を購入しました。

 高橋氏の美瑛とその近郊の写真と共に、光と影、光の陰影を強く意識した作品も載っています。青い池の写真もありますが、風化する前の木々が見られ、彼が先駆者であることを証明しています。さらに高橋氏の中に中西氏の「カムイ」の片鱗を見ることができます。

 中西氏の特異な点はモノクロや長時間露光、ローキーもある点です。高橋真澄氏を師匠とする中西敏貴氏。中西氏がこの2人とどのように異なる美瑛と風景写真を見せてくれるのかは現在進行形で、それらが垣間見えるのがこの2冊の写真集です。

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 中西氏のブログで「時代を読む」ということも大切とありました。写真集「カムイ」はアイヌを意識したテーマ作品です。それは、白老町の「ウポポイ(民族共生象徴空間)」開設の時期でもあります。北海道の先住民としての原風景の記憶や神の気配を撮影したのが「カムイ」(アイヌ語の「神」の意味)というようなことですので、時期にマッチした作品とも言えます。

 中西氏が北海道の原風景をだどるにはこのアイヌの文化や精神を無視できないものです。2014年に開設したアトリエの名は「ニペク」。アイヌ語で「光」を意味するそうです。北海道へ移住して2年後ですので、すでにアイヌを意識した歴史観があったものと思われます。

 光の明暗、陰影を強く意識した作品に中西氏の特徴があると思いますし、高橋氏の表現の1つでもあるものの発展、進化、深化でもあるのだと思われます。美と驚異の象徴としての自然が、神の宿る場所としての自然(動物も)でもあるとすれば、個人的にはこの光の明暗、陰影を強調するのが帰結かとも考えます。風景写真とは言え、心象的な雰囲気を感じる作品が多いのが特徴ですが、鑑賞者へ語りかける印象や言葉には深いものがあるように思います。
 さらに触れておきたいのは、風景はパンフォーカスという常識を越えた作品があることです。1つは明暗差を際立たせるもの、2つ目にはブレの利用、さらに降雪や霧、靄などで不鮮明さや曖昧さをも作品にしているのです。私にとって、これは革命的なことです。

 風景と中西氏の心象やテーマが合致し、風景を心象光景へと昇華した、まさに「essence」とも言うべき作品群が発表されたということになるのです。また、この写真集は組写真ということで見れば、氏のいうところの神=霊的存在=崇高な精神への感覚的理解も可能になるのではと思います。中西氏曰く、カムイの「気配」を感じることだけに集中して撮影したとあります。すでに、撮影技術を超えたところで、鋭い感覚や感性に任せたと言うところもすごいと言う感想です。
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 そして、中西氏は今後、アイヌの源流ともされるオホーツク人がいたとされる北海道の東部へと撮影場所を広げていくようです。中西氏の歴史的な視点からのテーマと言うのが、実にユニークです。かつまた、風景に宇宙を見る、ミクロがマクロでもあると言う視点もありますので、ローカルな視点からグローバルを狙うような、今最も楽しみな写真家です。
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