
高橋氏の美瑛とその近郊の写真と共に、光と影、光の陰影を強く意識した作品も載っています。青い池の写真もありますが、風化する前の木々が見られ、彼が先駆者であることを証明しています。さらに高橋氏の中に中西氏の「カムイ」の片鱗を見ることができます。
中西氏の特異な点はモノクロや長時間露光、ローキーもある点です。高橋真澄氏を師匠とする中西敏貴氏。中西氏がこの2人とどのように異なる美瑛と風景写真を見せてくれるのかは現在進行形で、それらが垣間見えるのがこの2冊の写真集です。


中西氏が北海道の原風景をだどるにはこのアイヌの文化や精神を無視できないものです。2014年に開設したアトリエの名は「ニペク」。アイヌ語で「光」を意味するそうです。北海道へ移住して2年後ですので、すでにアイヌを意識した歴史観があったものと思われます。
光の明暗、陰影を強く意識した作品に中西氏の特徴があると思いますし、高橋氏の表現の1つでもあるものの発展、進化、深化でもあるのだと思われます。美と驚異の象徴としての自然が、神の宿る場所としての自然(動物も)でもあるとすれば、個人的にはこの光の明暗、陰影を強調するのが帰結かとも考えます。風景写真とは言え、心象的な雰囲気を感じる作品が多いのが特徴ですが、鑑賞者へ語りかける印象や言葉には深いものがあるように思います。
さらに触れておきたいのは、風景はパンフォーカスという常識を越えた作品があることです。1つは明暗差を際立たせるもの、2つ目にはブレの利用、さらに降雪や霧、靄などで不鮮明さや曖昧さをも作品にしているのです。私にとって、これは革命的なことです。


そして、中西氏は今後、アイヌの源流ともされるオホーツク人がいたとされる北海道の東部へと撮影場所を広げていくようです。中西氏の歴史的な視点からのテーマと言うのが、実にユニークです。かつまた、風景に宇宙を見る、ミクロがマクロでもあると言う視点もありますので、ローカルな視点からグローバルを狙うような、今最も楽しみな写真家です。